田中さんは、まさに分かってない人である。
漆塗りを本業としているが、それ以外の生活は全く分かってない。

いつも朝5時位から仕事場に入り、さっさと済ませると何処かに出かける。
それが私のうちの場合が多い、週5で居た。
 当時私は8時に仕事場に入るのだが、既にいる。
というか、コーヒーを飲んでいる。「えっ?」
「誰もいないからポット沸かしといたざ」と。

そして昼頃まで居るのだが、あまりしゃべらない。よく来るのでネタが切れているだけなのだが・・・・。
そして昼近くになると「ご飯も出なさそうだし帰るとするかぁ」と去っていきます。

 そうそう田中さんは自転車で来るのだが、玄関を必ず閉めない。
よって自転車があって玄関が半開きだと「いる」のだ。
仕事ぶりは・・・・・・・雑なのです。

 わが町では集金日は10日と決まっていて、田中さんは突貫工事並みで10日に半乾きだろうが関係なく間に合わせ、
請求書と共に納品にきて、催促して支払いその場でけ取る。
きっとその後は競輪にでも行くのだろう。

 ある日、突然姿を消した。
家族から「父ちゃんが消えた」と連絡が入った。
2か月位音沙汰が無かったのだが、ある日家族の方から「病院にいるから大丈夫」と連絡があった。兎に角ホッとした。

栄養失調だったので、点滴をして数日で退院してまた日常の「居る」になった。
「どうしてたんですか?」
「いや~~競輪で掏ってしまって、追われてたから隠れてた」と
なんでも自転車で方々ふらつき、やがてふらふらになって溝に落ちて救急車で運ばれたらしい。

 色は真っ黒に日焼けしているので、とても栄養失調には見えなく、
なんでも宿泊は大きい病院の待合室に夜忍び込んで寝るという連日を過ごしていたそうだ。

 GoogleMapで我が家を見ると、あるある自転車が。
そして玄関は開いている。(笑)

*田中さんは仮名です。

2022年6月27日